マヤ神話『ポポル・ヴフ』のあらすじとマヤ暦との関連性

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高度な天文学を発達させ、宇宙の流れを精確に観測していた古代マヤ人は、他の文明にはない独特の暦や世界観を持っていました。

しかし、スペイン征服後にマヤの書物がほとんど焼き捨てられてしまったため、わずかに残っている書物や石碑に刻まれた文字などから読み解いていくことしかできません。

そんな中で『ポポル・ヴフ』は、マヤ神話が記されている大変貴重な書物であり、現代でもマヤの世界観を研究する上で欠かせない資料として扱われています。

登場人物の名前が260日暦(ツォルキン)の日の名前であったり、マヤ暦の起承転結サイクルでもある「4」という数字が頻出したりと、マヤ暦を実践する私たちにとっても面白い関連性がある『ポポル・ヴフ』。

そのあらすじを簡単にわかりやすく紹介します。

目次

『ポポル・ヴフ』とは?

『ポポル・ヴフ』は発見されたとされるチチカステナンゴのサント・トマス教会
出典:Wikipedia

『ポポル・ヴフ』とは、現在のグアテマラ高地で栄えたキチェー王国に伝わる物語です。

キチェー王国はマヤ文明を築いた都市国家の一つで、最盛期の1450年頃には100万人を超える人口を有していたとされています。

1524年にスペイン人に征服されてしまいますが、古くから伝承されてきた神話や王国の歴史が、人々の記憶から消えることはありませんでした。

1550年頃、スペイン人の支配下でアルファベットを覚えたキチェー人が、アルファベット表記のキチェー語で王国の物語を記した書物が『ポポル・ヴフ』です。

それから約150年後の18世紀初頭、スペインから新大陸へと渡ったフランシスコ・ヒメーネス神父が『ポポル・ヴフ』を見つけ、キチェー語のまま書き写し、スペイン語の訳を付けました。

ヒメーネス神父は1688年に新大陸へ赴任しており、1701年にキチェー族が住むチチカステナンゴへ異動。

『ポポル・ヴフ』はチチカステナンゴで発見されました。

ヒメーネス神父は10年以上にわたる現地生活の中でマヤ語を習得し、マヤ人の文化や思想を理解していたようです。

現在残っているのはヒメーネス神父の写本のみで、1550年頃に書かれたとされる原本は残っていませんが、マヤの神話や世界観が記されている数少ない資料の一つとして重宝されています。

『ポポル・ヴフ』という言葉は、「共同体の書」「評議会の書」「民衆の書」などと訳されるマヤ語です。

1550年頃に書かれた原本の序文に、

「我々の歴史や生活が明らかにされていた、かの『ポポル・ヴフ』という原典があった」

という記述があることから、『ポポル・ヴフ』がタイトルとして採用されました。

『ポポル・ヴフ』のあらすじ

『ポポル・ヴフ』は全部しっかり読もうとすると長いので、ざっくりと以下3つの章に分けてあらすじを紹介します。

  1. 世界創造
  2. 太陽と月と星の誕生
  3. 人類の誕生と繁栄

登場人物も多く、しかも似たような名前ばかりで混乱してしまうので、最低限にしぼって「簡単にわかりやすく」をモットーにまとめました。

第1章 世界創造

『ポポル・ヴフ』の始まりは、世界中の神話のほとんどがそうであるように、神々による世界創造の物語です。

いきなり6柱の神様が登場しますが、「グクマッツ」という神様の名前だけ押さえておきましょう。

グクマッツはメソアメリカ地域の人々に共通して崇められている神様、「羽毛の生えた蛇」です。

地域によって「ククルカン」「ケツァルコアトル」といった名称となり、代表的なマヤ遺跡の一つであるチチェン・イッツァは「ククルカン神殿」とも呼ばれます。

『ポポル・ヴフ』ではグクマッツという名前で登場し、他の神々と共同で大地を創り、動物を創り、人間を創ろうとします。

神々は自分たちを崇めてくれる存在が欲しかったのですが、動物たちはキーキー吠えるだけだったので、「お前たちは生贄となり食べられる運命だ」と決定づけられました。

人間も出来が悪かったので、失望した神々は洪水を引き起こして流し去ることに。

一部の人間はしぶとく生き残りましたが、その子孫が今も森の中にいる猿だということです。

第2章 太陽と月と星の誕生

結局まだ人間は生まれていませんが、ここで「フンアフプー」と「イシュバランケー」という双子の神の話に飛びます。

この双子はのちに太陽と月となる神様で、『ポポル・ヴフ』の主人公ともいえる存在です。

フンアフプーは「漁師」、イシュバランケーは「小ジャガー」という意味。

双子の父親は「フン・フンアフプー」という名前で、「1・猟師」という意味です。

260日暦の生まれた日が名前として使われています。

怪鳥一家を退治

最初はヴクブ・カキシュ(7・コンゴウインコの意味)という鳥の怪獣を退治する話から始まります。

その頃はまだ大地が創られた直後で、まだ太陽と月がありませんでした。

傲慢なヴクブ・カキシュは「我こそが太陽であり月である」と宣言し、世界を支配しようとします。

その長男も次男も傲慢だったため、双子の神が一家もろとも退治するというストーリーです。

『ポポル・ヴフ』ではヴクブ・カキシュ一家の悪事がそれほど語られてなく、双子の神のやり方が非常に姑息なので、「これが神のやることか?」と疑いたくもなります。

ヴクブ・カキシュの長男が400人の若者を討つ話もありますが、これも先手を仕掛けたのは若者たちであり、あまり悪いことのようには思えないのです。

ちなみに「400」というのは大勢を表す数字であり、文字通り400人と解釈することもできますが、数万人規模の大勢と考えることもできます。

双子の誕生秘話

続いてはフンアフプーとイシュバランケーが生まれた経緯が記されています。

ちらっと上述しましたが、双子の父の名はフン・フンアフプー(1・猟師)。

双子が生まれる前に、フン・バッツ(1・ホエザル)とフン・チュエン(1・クモザル)という二人の息子が既にいます。

彼はその二人の息子と、兄弟のヴクブ・フンアフプー(7・漁師)と4人で毎日球技を楽しんでいました。

するとその音があまりにも騒がしかったので、地下にある冥界「シバルバー(恐怖の場所の意味)」の王、フン・カメー(1・死)とヴクブ・カメー(7・死)を怒らせてしまいます。

  • 260日暦の生まれた日が名前になっていることを強調するためですので、登場人物の名前を覚える必要はありません。

シバルバー王の二人は「4匹」のミミズクを遣わせ、フン・フンアフプーとヴクブ・フンアフプーを呼び出しました。

まんまとおびき出された二人は、シバルバー王の計らいによって命を落とし、フン・フンアフプーの首は木に吊るされることに。

すると何年も実をつけたことのないその木に実がなったので、シバルバー界でうわさになります。

そのうわさを聞いた好奇心旺盛な少女イシュキックがその木を見に行くと、フン・フンアフプーの首がしゃべり出し、イシュキックにツバをかけました。

それでイシュキックは、フン・フンアフプーの子を身ごもります。

そう、それがフンアフプーとイシュバランケーの双子です。

ここからの話は省略しますが、前妻の子であるフン・バッツ(1・ホエザル)とフン・チュエン(1・クモザル)が既にいたこともあり、フンアフプーとイシュバランケーは愛情を注がれずに育ちます。

復讐の機会をうかがっていた双子は、フン・バッツとフン・チュエンを名前の通りに猿の姿に変えて、元の人間の姿に戻すためのチャンスを「4回」与えるも成功せず、猿の姿のまま森へと消えていきました。

こうして元々いた二人を追い出すことで、双子は家族として認められたのです。

これもあまり良い話ではありませんね⋯⋯。

シバルバーを征服

さて、双子もまた、父と同じくシバルバーへと呼び出されることになります。

父が使っていた球技道具を見つけて、父と同じく球技に明け暮れ、シバルバー王を怒らせてしまったからです。

双子は父のようにあっさりとやられることはなく、数々の試練を突破していきますが、次から次へとキリがありません。

「一度死んだことにするしかない」と考えた双子は、わざと火に飛び込みました。

双子をしとめたと喜ぶシバルバー民は、その骨を石うすで挽いて粉にし、川に流しました。

するとその粉が川の中で再生し、もとの姿に戻ったのです。

復活した双子はシバルバー王をだまし討ち、シバルバーを征服。

すべてをやりとげた双子は天に昇り、太陽と月になったのでした。

そしてヴクブ・カキシュの長男にやられた400人の若者たちも、星になって宇宙へ舞ったということです。

第3章 人間の誕生と繁栄

チチカステナンゴの街並み

話は第1章で失敗したままとなっていた人間の創造へと戻ります。

今度はトウモロコシの粉を使ってみたところ、見事に高い知能を持つ人間ができあがりました。

最初にできた人間は「4人」の男で、そのうちの一人の名は「バラム・キチェー」、キチェー人の祖先です。

4人とも神々に匹敵するほど聡明でしたが、神々にとっては脅威ともなるため、能力をそぎ落とされてしまいます。

目を曇らされて、目の前の物しか見えないようにされたのです。

目先のことしか考えられない人と、ずっと先を見据える神、という対比でしょうか。

4人はそれぞれ妻を与えられ、繁栄し、さまざまな部族が生まれていきます。

しかし4人は他の部族と一線を画す存在であり、神々のご加護のもとで部族を制圧。

すべての部族を打ち破ると、4人は死を迎え、子供たちにあとを託します。

子供たちは東方へ行き、安住の地を見つけ、子孫を殖やしていきました。

こうしてキチェー王国の礎が築かれたのです。

『ポポル・ヴフ』をもっと知りたい方へ

このように『ポポル・ヴフ』は世界の創造神話から始まり、キチェー王国の歴史物語で終わります。

260日暦の生まれた日が名前として使われていたり、「4」が重要な数字であることがわかったりと、マヤ暦を学ぶ私たちにとっても面白い要素はあったのではないでしょうか。

この記事では「短い時間で簡単に内容がわかるように」と、大部分を省略しておりますので、『ポポル・ヴフ』をもっと詳しく知りたいという方は、ぜひこちらの本を読んでみてください。

A・レシーノス原訳・林家永吉訳『マヤ神話 ポポル・ヴフ』

A・レシーノス原訳・林家永吉訳『マヤ神話 ポポル・ヴフ』(中公文庫)

『ポポル・ヴフ』の全文が日本語訳で掲載されています。

簡素な日本語訳で読みやすく、解説もついていますのでそれほど難しくはありません。

全文をきちんと読んでみたい方にオススメです。

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芝崎みゆき著『古代マヤ・アステカ不可思議大全』

芝崎みゆき著『古代マヤ・アステカ不可思議大全』(草思社)

こちらはマンガのような感覚で『ポポル・ヴフ』のあらすじを読むことができます。

とてもわかりやすいのはもちろん、「えっ?」と思うようなストーリーや神々の振る舞いに対しての的確なツッコミがまた面白いです。

『ポポル・ヴフ』に限らず、マヤ文明の全体像を楽しく学べる一冊。

マヤ暦についての記述もあり、これがまた非常にわかりやすいので、ぜひ読んでみてください。

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